『玉依姫』を読んでみました(ネタバレなし) ~ 阿部 智里 ~

私の読書感想文

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『玉依姫』を読んでみました。

 

2016年7月に出版された、八咫烏シリーズの第5巻。
タイトルに烏の文字がないことで予想されていましたが、今回の『玉依姫』は今までの八咫烏シリーズとはニュアンスが少し変わりました。

 

現代の普通の高校生である志帆は、かつて、祖母が母を連れて飛び出したという山内村を訪ね、祭りの恐ろしい儀式に巻き込まれます。
人が立ち入ることを禁じられた山の神域で、生贄として差し出された志帆の前に現れたのは、山神様と呼ばれる化け物や、大猿、人間の姿をした天狗や八咫烏・・・
異世界「山内」の秘密や、4巻の最後でチラッと触れられた猿の背後にいる黒幕がついに明らかになります。
あらすじを簡単にまとめてしまうと、なんとなく小野不由美さんの『十二国記』の始まりを彷彿させますね。

 

前作の『空棺の烏』が雪哉を中心とした成長物語だったので、今作はいよいよ消えた真の金烏の記憶が明らかになり、人間や烏を食らう大猿や背後にある悪との対決へ!・・・と、勝手に想像してました。
そしたら雪哉のゆの字も出てこない。それどころか、シリーズ全体の主役であるはずの若宮さえ脇役扱い。
完全に面食らってしまいました。
これは、読む人によって評価が分かれるだろうなあ。

 

でも、私はこの作品も好きです。
確かに今までと作風は違うけど、古代日本の神の在り方や、異界の存在意義にまで触れたことで話に奥行が出ました。
あくまでもファンタジーの域を出なかった作品が、軽やかな語り口はそのままに、一気に重厚な文学作品のレベルにまで格上げされた感じさえします。
また、このシリーズの1巻と2巻で見せたように、1つの事実の背景を全く違う視点から語ることで物語への理解を深めさせ、それでいて、それぞれを単体で読んでも1つの作品として完全に成り立たせています。
作者の技術の確かさには本当に驚かされました。

ちなみに、1巻のあけび姫に続き、今回も「そんな突拍子もない人が悪人なの!? ここでその人を悪人にする必要ある?」っていう話がサラッと出てきます。
もしかしたら阿部 智里さんは、ポヤポヤした普通の善人は嫌いなのかもしれない。

 

次回は2017年夏に第1部完結編を刊行予定だそうです。
「第1部っていうことは、このシリーズはまだまだ続くのね。うれしい!」という思いと「ストーリーをここまで広げてしまって、最後にまとめられるのか?」っていう思いが入り混じっています。
でも、阿部さんならきっと! そんな期待が持たせてくれる秀逸な作品でした。

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