『スティグマータ』を読んでみました(ネタバレなし)   ~近藤 史恵~

私の読書感想文

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『スティグマータ』を読んでみました。

名作『サクリファイス』シリーズの第5編。
前作『キアズマ』では主人公が変わりましたが、今作ではまた白石誓・・・チカの話に戻ります。
『キアズマ』も十分おもしろかったけど、やっぱり私はチカが好きなので話が戻ってうれしい。
今回は『サヴァイヴ』までに出てきた主要キャラも総出演。
おもしろくないわけがない。

 

今回のお話は、ドーピングの発覚で失墜したかつての帝王が、ツール・ド・フランスに突然復帰するところから始まります。
復帰の真意が見えず動揺が拡がる中、3週間にも及ぶ過酷なレースは進んでいきます。

『スティグマータ』とはイエス・キリストが磔刑となった時についた傷のことを指し、カトリック教会では奇跡の顕現と見なされているそうです。
作者が何をもってこのタイトルをつけたかは語られていませんが、相変わらず人間描写とロードレースの臨場感は見事です。

今作の終わり方を見ると、チカの話はもう少し続きそうです。
『サクリファイス』では若手だったチカも30代となり、勝つことの意味も知らなかった青年が、欲や嫉妬といったドロドロした感情も知り始めました。
次作以降は、選手としてのピークを過ぎたチカのお話になりそうです。
新刊を読み終わったばかりなのに、もう次が読みたくてたまらなくなるほど秀逸な作品でした。

 

本の話からはそれてしまいますが。

『スティグマータ』を読み終えた今日、2016年のツール・ド・フランスは最終日を迎えます。
今日の最終ステージはパリへの行進の意味合いが強く、シャンゼリゼで迎えるゴールには現時点のマイヨ・ジョーヌ「クリス・フルーム」が先頭で飛び込むのは間違いありません。

このクリス・フルーム。
今大会第12ステージの残り400m地点、最後の上りでアタックを仕掛けますが、TV中継のバイクに激突、落車してしまいます。
フルームの前を走っていたバイクカメラが観客の壁に阻まれ、急停止してしまったのです。

この衝突により、フルームの自転車は後ろから来た別の自転車に轢かれてしまいます。
自身のアタックで置き去りにした選手たちが横をすり抜けていく中、フルームの自転車は壊れて使いものにならないのです。
ここで、フルームはどうしたのか?
常道で言えば、チームカーの到着を待ち、スペアの自転車に乗り換えるの妥当です。
しかしフルームは、壊れた自転車をその場に置き去りにし、自分の足でゴールを目指すことを選んだのです!

 

結局、競技後の審議により、救済処置を受けたフルームはマイヨ・ジョーヌを守ることができました。
しかし、このフルームの行動に対し、現地のベテラン記者からは失笑が起こり、表彰式では観客からブーイングが浴びせられたそうです。
元ケニア国籍の南アフリカ育ちであるフルーム。
フランス人エリートらの差別意識がそうさせたのだとか・・・

 

フルームのランニング姿は大きな話題となり、世界中のメディアが「マイヨ・ジョーヌ」のランニングシーンを取り上げました。
『サクリファイス』のファンである私は、フルームの走る姿にエース石尾豪やミッコ・コルホネンの執念を見た気がしました。

この世界最大の自転車レースイベントは、ポテンシャルの高さや運の良さだけで勝ち抜くことはできません。
夢を掴むため、誰よりも必死にあがいた者だけに、「マイヨ・ジョーヌ」の栄光は微笑むのだろうと思いました。

 

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